コラム|建築条件付土地の売買に際しての留意点

弁護士 石原廣人 

 武蔵小杉の法律事務所、田中・石原・佐々木法律事務所の弁護士の石原です。
 今回は、特に建売業者の方が知っておいた方がよいと思われる、建築条件付土地の売買に際しての留意点についてお話したいと思います。

1 建築条件付土地の売買とは

 建築条件付土地の売買とは、土地の売買契約のうち、土地の買主が、売主(又は売主の指定する業者)との間で建物を建築する契約を結ばなければならないという条件が付けられているものをいいます。
 あらかじめ建築された建物を土地と一緒に販売する建売住宅では、建物の間取りや仕様について買主の希望を反映できないのに対し、建築条件付土地の売買では、これから建築する建物に買主の希望を反映することができるというメリットがあります。

 このようなメリットから建築条件付土地の売買は広く一般的に行われていますが、その契約書には通常の土地売買契約とは異なる特約が設けられているため、建築条件付土地の売買を巡ってトラブルが起こっています。

2 建築条件付土地の売買契約における特約

 このような建築条件付土地の売買契約は、独占禁止法で禁止されている不当な「抱き合わせ販売」に該当する可能性があるとされています。すなわち、土地の買主は、本来建物の施工業者を自由に選べるはずですが、建築条件付土地の売買では、売主の指定する業者と建築請負契約を結ばない限りその土地を購入することができなくなります。この点が、土地の売主による建築請負契約の不当な強要に当たるのではないかと指摘されています。

 建築条件付土地の売買が不当な「抱き合わせ販売」となることを避けるため、建築条件付土地の売買契約書には、次のような特約が設けられ、買主の保護が図られています。

  1. 土地の売買契約は建築請負契約が締結されることにより効力が生じること(又は建築請負契約が締結されない場合に解除されること)
  2. 建築請負契約が締結されないことが確定した場合、売主は買主から受け取った金員を返還すること

 これらの特約と関連して、特に建築条件付土地の売買契約を締結した後、建築請負契約が締結されなかったような場合に、土地の売買についての手付金返還等を巡ってトラブルが生じています。

3 建築条件付土地の売買における手付金の返還

 手付金とは、売買契約が締結された場合に、売主が買主から受け取る金銭であり、売買契約が締結されたことを確認する意味を持ちます。そして、一旦締結された売買契約を買主の都合により解除する場合、買主は売主に交付した手付金の返還を受けられないことが原則となります(手付損・民法557条1項)。

 それでは、建築条件付土地の売買契約における上記①②の特約は、この手付損の原則との関係で、どのように取り扱われるのでしょうか。
 この点、契約書に定められた特約は、民法の原則に優先することになりますので、上記の特約は、手付損の原則に優先することになります。つまり、建築請負契約が締結されないことを理由として土地の売買契約の効力が失われた場合には、売主は買主に対して手付金を返還しなければなりません。

 では、いかなる理由によって建築請負契約が締結されないことになった場合にも、売主は手付金を返還しなければならないのでしょうか。
 この点、上記の特約は、買主が土地売買についての手付損を気にせずに、建築請負契約を締結するかどうかを自由に判断することができるようにする目的で設けられています。
 このような上記特約の目的からすると、建築請負契約を締結するかどうかは専ら買主の意思に委ねられていると考えられ、買主側の都合により建築請負契約が締結されなかった場合にも、原則として売主は手付金を返還しなければならないように思われます。

 もっとも、(1)他の物件と比較検討している買主が土地の売買契約を締結することにより一応土地を押さえておき、結局他の物件を選んだために建築請負契約の交渉すらしなかった場合や、(2)建築請負契約の交渉がかなり進んだ段階で、買主が他の物件を見つけたことにより建築請負契約の締結をしなかった場合のように、買主が取引上不誠実な対応をとった場合には、手付金を返還する必要はないという判断がなされる可能性もあり得ると思われます(このような場合に対応するため、土地の売買契約書を工夫することも検討すべきでしょう。)。

 なお、土地の売買契約と建築請負契約を同時に締結してしまえば、上記の特約が適用される余地はなくなりますが(この場合、契約上は手付金を返還する必要はなくなります。)、このような同時契約を買主に要請すると、土地の売買が独占禁止法に違反する不当な「抱き合わせ販売」と判断されるおそれが高くなると思います。

4 おわりに

 上記のとおり、建築条件付土地の売買においてはトラブルが増えていますが、現状では十分な判例の集積もなく、独占禁止法との関係もあり、その解決は困難が伴う場合もあります。当事務所では、不動産関連の紛争に加えて独占禁止法関連も取り扱っておりますので、このような事案でお困りの方がいらっしゃいましたら当事務所にお気軽にご相談ください。

以上

 

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