コラム|マンション・団地における組合費滞納の対応法

弁護士 佐々木好一 

 武蔵小杉の法律事務所、田中・石原・佐々木法律事務所の弁護士の佐々木です。
 私たちは、マンションや団地のような区分所有建物に関する法律問題も専門の一つとして取り扱っています。
 今回は、マンションの管理組合の方や管理業者の方が悩まれる、組合費の滞納問題についてお話ししたいと思います。

1 組合費・修繕積立金の重要性

 マンションや団地では、通常、組合費や修繕積立金などの名目で、組合員からお金を徴収しています。
 マンションや団地に適用される「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます。)も、組合員が組合費や修繕積立金を支払うことを当然の前提としています。
 組合費や修繕積立金は、管理組合の運営やマンション等の修繕など、マンション等で居住するため必要不可欠ともいえるものですので、それをきちんと回収することはとても重要です。
 その支払いがない場合の対応としては、以下のようなことが考えられます。

2 滞納理由の確認と話し合い

(1)まずは、どうして滞納組合員が組合費等を支払わないのかを確認し、任意に支払いをしてもらえるよう、話し合いの機会を持つべきでしょう。

(2)滞納の理由が、「今は失業中でお金がない。」など、支払う意思はあるものの、その能力がないというような場合には、それが真実であるか、いつになれば支払えるようになるのかなどを確認したうえで、分割弁済を求めていくことになると思われます。
 また、自分はマンションの共用部分を利用していない(たとえば1階に住んでおりエレベーターを使っていない)からその分の組合費は支払わないなど法的には認められない主張する場合には、マンション等を所有している以上法的には組合費等を支払う義務があることを説明して、理解をしてもらう必要があります。

3 強制的な回収方法

(1)これに対し、話し合いをしたものの正当な理由もなく支払いを拒絶している、あるいはそもそも話し合いに応じない、というような場合には、法的措置を検討することになります。

(2)この場合、まずは弁護士を通じて内容証明郵便を送ってもらうという方法があります。
弁護士から通知書が届けば、「どうせ支払わなくてもいいだろう。」という甘い考えを持っている人への圧力になり、回収が一定程度見込まれます。

(3)それでも滞納を継続する場合には、裁判所を利用した法的手続をとることになります。裁判所を利用した法的手続をとった場合、支払いをしない滞納組合員の財産を差し押さえることもできるようになります。

(4)訴訟手続など
 裁判所を利用した手続には、主に①支払督促、②少額訴訟、③通常訴訟があります。

① 支払督促
 裁判所に行くことなく、書面審理だけで滞納組合員に支払督促を出してもらうことができる制度です。
費用も安く、裁判所に行く必要もないので、簡単に利用することできます。基本的にはこの手続を利用することがよいでしょう。
 もっとも、滞納組合員が督促に異議を出した場合には通常訴訟の手続に移行することになってしまいますので、そのような方を対象とすることは無用に時間がかかってしまうことにもなりかねず、注意が必要です。

② 少額訴訟
 少額(60万円まで)の請求をする場合に利用することができる制度です。
 原則として1回の期日で審理を終え、判決を出してもらうことができますし、通常訴訟よりも費用を抑えることができます。
 支払督促だと異議が予想される場合には利用すること検討してもよいでしょう。

③ 通常訴訟
 一般的に知られている裁判のことです。
 何度か審理を進め、滞納の事実を証明することができれば、滞納組合員に支払いを命じる判決を出してもらうことができます。
 先の①、②に比べて、時間と費用がかかりますが、滞納金が多額だったり支払督促を出しても異議が出されそうなときは、最初から通常訴訟を提起した方がよい場合もあるでしょう。
 なお、滞納組合員が今後も支払いをしないと思われる場合、これまでの滞納分の支払いだけではなく、今後発生する組合費等の支払いを合わせて判決で命じさせることができる場合があります。そうすることで、滞納がたまった都度支払督促等を受ける必要がなくなり、回収に役立ちます。

(4)強制執行
 ①~③により判決や支払督促を出してもらったら、滞納組合員の有している財産を差し押さえることで、回収を図ることになります。
 たとえば、滞納組合員の仕事先がわかっていれば給与を、銀行預金口座(支店まで)がわかっていれば預金を差し押さえることができます。
 もっとも、これを逆に言えば滞納組合員の財産を知らなければ費用をかけて強制執行を申し立てても回収ができない可能性もあります。

(5)競売
 これらの方法をもってしてもダメな場合には、その人の所有建物(居住している団地やマンション)を区分所有法59条に基づいて競売にかけ、排除してしまうということが可能です。
 区分所有法59条は、「区分所有者の共同の利益に反する行為」による「区分所有者の共同生活上の障害が著しく」、「他の方法によってはその障害を除去」することが困難な場合には、訴訟をすることで、その者の所有マンション等を競売にかけることができる旨規定しています。
 組合費の滞納もこれに当たると考えられているため、滞納組合費の額が大きくなった場合には、競売にかけることも選択肢になりえます。
 もっとも、いくら滞納があれば競売が認められる程度かということには明確な基準はありませんので、実際に訴訟にするかどうかの決断は難しいといえます。
 ただし、この方法によれば、滞納組合員自体を排除することができ、滞納問題を根本的に解決することもできるため、最終手段としては検討に値するものと考えられます。
 なお、競売を認める判決が出された後に滞納組合員が部屋を他人に売ってしまうとそのマンションを競売することはもはやできなくなってしまいます(最高裁平成23年10月11日判決)ので、判決が認められた場合には迅速な対応が必要になります。

(6)先取特権
 これらとは別に、そもそもマンションの組合費等については先取特権というものが認められているため、支払督促等の手続をすることなく、滞納組合員の部屋を競売したりできます。
 もっとも、このような滞納組合員には部屋に抵当権を設定されていることが多く、この場合、ローンを差し引いても利益が出なければ競売が認められないことから、実効的とは言いにくいと思われます。

4 終わりに

 マンション等は多数の人がずっと住んでいくものであることを考えると、すぐに法的手段に訴えることは好ましくないでしょう。
 しかし、組合費等の重要性を考えると、どのような手段をとるべきかを知っておき、適切な対応をとることが必要といえます。
 マンション等の管理組合で組合費等の回収で苦慮している方がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。

以上

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